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東京喫茶部

東京喫茶部「ゆうらく」

2019.08.07

文/小谷実由

写真/島田大介

なぜ私は行きたいなと思った喫茶店にすぐ足を運ばないのだろう。ただの怠惰なのか、それとも行きたいという気持ちをピークまで持っていってから行くためにもったいぶっているのか、現実を見て万が一理想が壊れるのを恐れて想像上で完結させたいのか。しかし、そんな頭の中の議論を飛び越えて「なんでもっと早く行かなかったんだ」と思わせてくれた喫茶店、それが今回訪れた浅草橋にある喫茶ゆうらくだ。

初めて訪れたのは2週間前。友人とふたりで月に一度、喫茶店でただひたすら読書をするという会をしていて、その会場に選んだのがゆうらくだった。ずっと前から行きたいお店リストにばっちり入っていたゆうらく。ネット上や本にある店内の写真を眺めては日々思いを募らせていたので、念願叶っての来店だった。

写真に穴が開きそうなほど眺めていたので、行ってもいないのにもうすでにお気に入りの席がある。入ってすぐ、レジの横にある赤いソファと黄色のカーテンの席。そこに座れたらいいなぁなんて思っていたのだが、その日私は待ち合わせの時間に遅れて到着してしまった。先に入店していた友人が座っていたのは入ってすぐ右の窓際の席だった。赤いソファに合う造花が飾ってあるのが印象的で、ここもまたよい席。お気に入りの席もすでに誰かが座っていたし、ちょっと残念に思いながらも念願のゆうらくをこの眼に焼き付けて胸がいっぱいになった。

注文を聞きに来てくれたのはかわいらしいお姉さん。まるで80年代の少女漫画から出てきたような、小柄でおしゃれな女性だった。そんな素敵な人に少しばかり緊張しながらもお腹が空いていた私はオムライスを注文した。その後友人とおしゃべりをしつつ、読書をしつつ、随分とゆっくり過ごしてしまい、あっという間に夕方になった。お店の奥から「お疲れ様でした〜」という言葉が聞こえたかと思うと、綺麗なウェーブのかかったロングヘアを下ろしてさっきのあのお姉さんが帰って行ったのが窓際から見えた。そのうしろ姿と働いていた姿のギャップに、憧れと嫉妬が入り混じったような不思議な気持ちが芽生え、つい彼女が見えなくなるまでずっと見送ってしまった。いま思うと喫茶店でアルバイトをしてみたかった気持ちを常に抱え続けている私にとって、彼女はすごく理想の存在だったのかもしれない。

そんな初めてのゆうらく物語を抱え、2度目の来店。今日は念願のあの席に座ることができた。そして前回と同じオムライスを注文した。このオムライス、ただものではない。半熟卵や卵かけ御飯が大好きな私にはたまらないトロトロな卵のオムライスなのだ。前回はナポリタンを食べようと思って行ったのだけど、オムライスのフォトジェニックさに負けてオムライスを注文した。今回も迷いながらまたオムライスをアンコール。もちろん他にも魅力的なメニューはたくさんある。だが、きっと私は次に来たときもオムライスにしてしまうんじゃないかと思っている。魔性のオムライスだ。

お気に入りの席はあれど、ここはどの席も素晴らしい。大きく分けて3つの部屋に分かれている不思議なつくりの店内。どの部屋にも象徴的なライトが飾ってある。前回は奥の部屋でサラリーマンたちが机をいくつも繋げてさながら会議室のように使っていた。会社ではなく喫茶店で会議をする、なかなか粋な会社だなぁとその光景を見て勝手に喜んでしまった。

もうひとつの奥の部屋は厨房の前にある不思議な円形の席。いまはあまり使うことはないようだけど、デザインがあまりにも素敵で見とれていたらマスターが座らせてくれた。半個室のような不思議な空間の席。昔はカップルの秘密の憩いの場だったかもしれない(うしろでは厨房が活気を帯びながら動いているけど)。

ゆうらくの看板の勢いのよい手書き文字も好きだ。文字の色は上品な濃紺。今日は、それに合わせて紺色のワンピースを着てきた。たしか5、6年前に古着屋さんで1000円くらいで買ったもの。なぜだか家族から受け継いだ古着と同じくらい愛着があって、ずっと着ている。前の持ち主と私が何かしらの繋がりでもあるのだろうか。これからもきっと毎夏時間を共にするはずの一着。そのうち未来の家族に渡ったらいいなんて思いながら。

オムライスの黄色と、もうひとつ夢中になっているのは実際に出会う前から好きだった席の黄色のカーテン。このカーテンに合わせて黄色のプリーツスカートを履いてくればよかったなぁ、それはまた今度。「またおいでね。」なんて優しい言葉を帰り際に貰ったら、そんなのまたすぐに来たいに決まっている。

ゆうらく
住所:東京都台東区浅草橋1-2-10
TEL:03-3861-9570
営業時間:[月~金]7:00~19:00 [土曜日]11:00~16:00
定休日:第2.3土曜日、日、祝日

クリエイターの紹介

小谷実由

モデル

1991年、東京生まれ。ファッション誌やカタログ、広告でモデルとして活躍。趣味は純喫茶巡り。「#喫茶部」として、オリジナルグッズを制作するなど、多くの人に喫茶店の魅力を伝える普及活動にも力を入れている。
https://www.instagram.com/omiyuno

島田大介

映像作家/写真家

映像ディレクターとしてキャリアをスタート。数々のCM やMUSICVIDEO などを演出し、カンヌ広告祭をはじめ国内外数々の賞を受賞する。2018 年、代表を務めた映像制作会社コトリフィルムを解散。 現在は作家としての制作を中心に活動中。

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