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東京喫茶部

東京喫茶部「資生堂パーラー 銀座本店 サロン・ド・カフェ」

2019.03.06

文/小谷実由 写真/島田大介

子供の頃にいいなぁと思っていた大人なこと、素敵なケースに入った口紅、おしゃれして街を闊歩すること、憧れのお店に入ってお茶をすること。それが全部叶う街は銀座だと思う。銀座はハイカラ。銀座はロマンチック。私にとってそんな気持ちで溢れる街である。その理由のひとつにはやっぱりこの場所があるからだと思う。

今日訪れたのは、「資生堂パーラー 銀座本店 サロン・ド・カフェ」。資生堂パーラーの原点である「ソーダーファウンテン」に始まる歴史を受け継ぐ場所だ。テーブルクロスやお皿にSHISEIDOのロゴや花椿のマークを見つける度にいつも胸が高鳴る。

以前、資生堂パーラーで母の誕生日をお祝いしたことがある。自分でお店を予約して、母を連れていくということをしたのはそのときが初めて。とても緊張したことを覚えている。誕生日プレートのついたデザートを母に内緒で運んでもらうようにお願いしていた。すると、3人のウェイターさんがデザートを運んできて、ハッピーバースデーを歌いながらお祝いしてくれた。周りのお客さんたちまで拍手をしてくれたりしてちょっと照れくさかったけど、よい思い出である。あの日はその後、母と資生堂の口紅を買って帰った。

そんな思い出に浸りながら、一人きりの資生堂パーラー。一人で来るのはちょっとだけ寂しい。でも、とびきり贅沢な気分でもある。贅沢な気分のときは好きなものを好きなだけ食べたい。そんな日がたまにはあってもいいと思っている。しかし、好きな場所に来るといつもそんな気持ちになっているから、たまにじゃなくなっている気もする。でもそんな気持ちになるような好きな場所ってそんなに多くないものだよ。これは堂々巡りになりそうだから今度落ち着いて考えることにしよう。壁についているライトがアクリルのブロックみたいになっていることを初めて知った。気泡がキラキラしていてかわいいな、今日はやっぱりアイスクリームソーダが飲みたい。

ソーダ水にアイスクリームが浮かんだ飲み物、いわゆるクリームソーダを日本で最初に販売したのは資生堂パーラー。そんな発祥の地で味わうレモン味のソーダ水と甘すぎないアイスクリームは少し緊張感があって背筋が伸びた。甘さの中にほのかに感じるレモンの皮の苦み、限られた人しか入ることができない秘密の製造部屋で作られているなめらかなアイスクリーム。そして、氷山の一角かのような大きく透き通る氷が1つ浮いていて、その下から先が見通せることが私のお気に入り。一緒に頼んだシュリンプフライサンドウィッチがグラスから透けて見えたことで気づく。グラスの中に見える世界は初めて見るもののよう。アイスクリームソーダの中に現れたパラレルワールド。

シュリンプフライサンドウィッチはコンパクトなサイズに切り分けられている。資生堂パーラーの昔ながらのお得意様である新橋の芸者さん。彼女らのおちょぼ口でも美しく食べることができるようにこのサイズになったらしい。エビフライが1切れに2つ入っているからちょうど2口で食べることができた。サンド系を食べるときについ具を先に食べ終えてしまったりする不器用な私でも均等に最後まで同じ美味しいを味わうことができて安心した。美味しさと食べやすさとで思わずにんまりとしてしまう。

今日はベージュのシャツを着た。ちゃんとしたいときはシャツ。でも気持ちだけはゆるくいたいときはベージュ。そんな気分で今朝はこれを手に取った。銀座という街は、どうしたってかしこまりたくなる場所。「おめかし」のようなふわっと浮いた気分ではなく、一本線をすっと引くような清々しい気分が私の「かしこまる」ということ。レンガ色の壁が印象的な資生堂パーラーにしみ込んでいくように馴染んでいたことも嬉しかった。

伝統ある場所に緊張したり、見慣れていたものの新しい発見が嬉しかったり、美味しい気持ちに眠くなったり、なんだか頭の中がたくさんの心地よい気持ちで充満している。また今日も、こないだのように口紅を買って帰ろう。レンガ色の口紅はあるかな。

資生堂パーラー 銀座本店 サロン・ド・カフェ
住所:東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル3F
TEL:03-5537-6231(予約不可)
営業時間:火~土 11:30~21:00(L.O. 20:30) 日・祝 11:30~20:00(L.O. 19:30)
定休日: 月(祝日は営業)

クリエイターの紹介

小谷実由

モデル

1991年、東京生まれ。ファッション誌やカタログ、広告でモデルとして活躍。趣味は純喫茶巡り。「#喫茶部」として、オリジナルグッズを制作するなど、多くの人に喫茶店の魅力を伝える普及活動にも力を入れている。
https://www.instagram.com/omiyuno

島田大介

映像作家/写真家

映像ディレクターとしてキャリアをスタート。数々のCM やMUSICVIDEO などを演出し、カンヌ広告祭をはじめ国内外数々の賞を受賞する。2018 年、代表を務めた映像制作会社コトリフィルムを解散。 現在は作家としての制作を中心に活動中。

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