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今月の詩

サイレン

2019.03.01

詩/笹岡水樹

私は毎晩、四角い枠の中で息を吹き返す。
私は今夜、ぱっと咲かせる満月に祈る。
月がとても、とても、大きく見えると
私は、生きてる と感じる。

背中越しの暮らしに油のついた調味料
それぞれの思考に、味に、私は空白を感じる
短くも長くも広がる時間に首を傾げ。

朝になったら土に水を染み込ませ、
更に長い時間を感じよう

夜中のスープ、ちょっと酸っぱいミネストローネ
繰り返す 変わりばんこ 喜びは口のシミを見ればわかる
声の響き方で、笑いの方向もね

ああ、

もし、今でも、思い出を引っ張り出せるのなら
私は一昨日の昼食を思い出す
もし、今でも、君が私を探しているのなら
私はずっとずっと遠くだよ、と声のサイレンを鳴らし、
ここにいようと思う

選評/文月悠光

サイレン

読んだ瞬間から引き込まれて、この詩を選びました。
一連目に「君」という語はありませんが、その外側を描くことで、相手の輪郭、体温、声、近さを感じ取って、切なくなりました。「背中越しの暮らし~」以降は、歌のように声が響いてくる。何かを主張したり、断言したりする必要はなく、日々の景色を切り取って、ただ差し出し、愛おしんでいる様が心地よかったです。
誰かとの別れはそういうものかもしれない。失ったのは「君」だけではなく、むしろ君といた過去の「暮らし」、君と過ごしていたときの自分自身なのでしょう。だからこそ、二連目はどこか力強くもある。〈声のサイレン〉、確かに聞こえましたよ。

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