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今月の詩

5階ラウンジにて

2018.11.06

詩/白井一

銀座でレポート用紙を探すのは難しい。
ぺらぺらですぐシワになるようなそんなものを、日曜の朝に探しているこの事実を、あなたは知ることはないと思う

大勢に隠れてあなたに向けるまなざしが
純度の高い毒になることをわたしは知っているから
こんな街でひとり紙を買って、いまは静かなラウンジで野菜ジュースを飲んでいる。

口の周りのにきびが治らないことも、太ももに三日月のあざが出来たことも、そんなことなにひとつあなたは知らないままどこかへ消えてほしい。なんにもわたしを知らないまま、遠くで好きなだけタバコを吸って気楽に過ごしてほしい。
わたしはなにも言わないから、どうかずっと無知でいて
それがきっと、もっとも美しく想う方法。

   

選評/文月悠光

あえて触れずにおくことで、その「想い」だけが鮮明に浮かび上がってくることがあります。不可知な美しい存在であることを、相手にも、自分自身にも願っているのでしょう。まなざしが「毒」になると知っているならば尚更そうです。「どこかに消えて」くれたなら、あなたの気配だけを純粋に楽しむことができるのに。「ぺらぺらですぐシワになるような」手近な恋にだって、本当は美しい瞬間があるのです。だけど、わざわざ探すことに意味がある。いっそ無知でありたい、それでも何かを知ってしまわずにはいられない私たちです。

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