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今月の詩

あたらしい音

2018.04.09

詩/大江 麻衣

なんだ、毎日はあたらしい音だったと気づいて
目覚めた
誰かにあわせて言葉も服装も変えることのできた体のやわらかさ
でも、起きたら月島くんのことは忘れていた
取り出した思い出の順序はわからない
何も書かれていなかった
声は劣化して消えた

はじめて習うひらがなは一筆で書けるものから
「つくし」が書けるようになった、と報告
字で表わせたときのよろこび
それに相当するものは いまはなく
何のメタファーでもないつくし
そんなものはもう書けず なにを書いても陳腐な変換をされ
広い世界のことを わたしの狭い世界にしか当てはめられず
はじめて人の子をかわいいと思った
これから世界をあらわすことのできるものを
いつまでも「もっと丁寧に書きましょう」と言われるが
丁寧は世界ではなく 優しさ
書くのをやめたらあたらしい音で肺をいっぱいにする
速報やサイレンに怯える弱い耳でも 耳に入る音
すべて丁寧に聞くから
習おうとするから
遠くなっても 耳を澄ます

選評/高橋源一郎

入学されるみなさんに

さて、みなさん。びっくりしましたか?なにしろ、入学式で、先生がいきなり、詩の朗読を始めたんですからね。ほんとうは、ふつうにお祝いを言いたかったのですが、みなさんの格好を見て、気が変わりました。あの、みなさんはどうして同じような格好をしてるんですか?指定されたわけじゃないのに。なんとなく?ダメですよ、「世間」や「社会」や「空気」の指示ばかり聞いてちゃ。この詩の作者のように、耳を澄ましてください。世界は、たくさんの信号を、豊かな音をあなたに贈っているのです。思い出してください。ずっと昔、子どもだった頃、あなたたちは、その音を聴くことができたんですから。

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