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神話と植物の物語 ー北イタリア紀行ーVol.2

2020.01.15

文・写真/乾 ゆうこ

美しい島、という名の島へ。
 ミラノから電車で1時間半ほどのマッジョーレ湖(Lago Maggiore)。イタリアの北側にはスイス、オーストリアへ続くアルプスの峰が連なります。その山々に臨む地方には、氷河によってできたいくつかの細長い湖がありますが、マッジョーレ湖もそのひとつ。イタリアで2番目に大きな湖です。この湖に浮かぶ島々へは船で巡ることができます。目的地はイゾラ・ベッラ(Isola Bella、美しい島の意味)。

 昔むかし、紀元前600年頃、〈バビロンの空中庭園〉という、砂漠のなかにつくりあげられた、「世界の七不思議」にも数えられるすごい庭園があったそうな。まるで、その空中庭園さながら? あるいは〈ラピュータ〉(18世紀に、アイルランドの作家ジョナサン・スウィフトの書いた小説『ガリヴァー旅行記』、原題は“Gulliver’s Travels”、または“Travels into Several Remote Nations of the World in Four Parts by Lemuel Gulliver, First a Surgeon, and then a Captain of Several Ships”の第三篇に登場する〈空を飛ぶ島〉。このイメージは、大人気の日本のアニメーション映画にも登場してよく知られていますね!)か? と思うような階段状の庭園が、きらきらと透きとおったアルプス山麓の空気のなか、鏡面のような美しい湖に浮かんでいるのです。ただただ眩しい。

 ここは17世紀に、ボッロメオ家カルロ3世が妻のためにつくったという豪華な宮殿。ナポレオンも泊まったという部屋や、凝ったグロッタ(洞窟)風地下室などもあります。
 その庭園には、植物園のようにさまざまな樹木が植えられていました。バナナやヤシなどの南国的な趣向、竹林や椿のラビリンスといったオリエンタルな趣向、といろいろに贅を尽くした楽園です。

 一角獣や優雅な彫像たちの時間の止まったような姿から、神話的な気分が流れ込んできて、魂の底の、古い古い夢に誘われていくような気がしてきます。さらに、白孔雀たちの羽を広げる楽園的な様にみとれているうち、もはやここがどこだかわからなくなりそう。

 さて、南イタリアのシリーズで、太陽神アポローンに愛された美少年キュパリッソスのイトスギの話にふれましたが(「神話と植物の物語―南イタリア紀行―Vol.1 後編」
)、ここでは、やはりアポローンに愛されたヒュアキントスのお話です。

 エウロタス河畔のスパルタの美少年ヒュアキントス。彼をこよなく愛した太陽神アポローンは、いつも彼に連れ添っていました。ある日、少年とアポローンは大きな円盤の投げ比べに興じます。最初にアポローンが円盤を投げます。円盤は空中へ雲よりも高く飛び去り、やっとのことで落ちてきました。ヒュアキントスは、すぐに円盤を拾いに急ぎます。  

 ところが円盤は地面で跳ね返り、走っていったヒュアキントスの顔面に当たってしまいました。神は、少年を救おうとあらゆる手を尽くしますが、無駄でした。
 アポローンは自分を責め、深い悲しみにくれます。やがて、ヒュアキントスの流した血からユリのような花が生まれました。ヒアシンスと呼ばれる花となりました。

(なお、ここで語られるヒアシンスは、現代のヒアシンスとは違うとも言われるのですが。)

 イトスギのお話は繰り返しになるので、ここではふれませんが、マッジョーレ湖よりやや東南に位置するガルダ湖(Lago di Garda)を訪れた折、湖を囲む山の斜面にイトスギがぐるりと林立していて、とても荘厳な感じでした。まるで巨人族がじっと佇んで、湖を見守っているみたい! なんて思ってしまいました。写真のみご紹介しておきますね。

 そんなふうに、植物を感じながら巡る北イタリアの旅です。
次回は、ミラノからやはり電車で1時間半ほどにある、同じロンバルディア州の、楽器の街を訪ねます。

クリエイターの紹介

乾 ゆうこ

ライター

ホリスティックハーバルセラピスト。大学時代に花椿編集室に在籍し、「ザ・ギンザ・アートスペース」(当時の名称)キュレーターを経て、ライター・エディターとして活動。故・三宅菊子氏のもと『フィガロ・ジャポン』『家庭画報』などでアート・映画・カルチャーを中心に担当。出産を機に伝統療法や自然療法を学び、植物の力に圧倒される。「北イタリア植物紀行(全4回)」「アイルランドから〜ケルト植物紀行」(ともに『クレアボー』フレグランス・ジャーナル社)など執筆。生活の木(表参道校)では不定期にクラスを開催している。

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