次の記事 前の記事

Now, Then!

神話と植物の物語 ー北イタリア紀行ーVol.1

2019.12.09

文・写真/乾 ゆうこ

愛する『花椿』の読者の皆さま、こんにちは。ふたたびお目にかかれることになり、とても嬉しいです! どうぞよろしくお願いいたします。
古代の人たちは、植物を見てどんなことを感じたり、どんなふうに想像力を羽ばたかせたりしていたのだろう。そんな好奇心から、神話のなかの植物を眺めています。
時代を超えて今もそこに響きわたっている、古の人びとや植物の語りかけてくるなにか。それを感じることで、私たちの内なる古代の心も響きあっていくのではないかしら…と、そんなふうに思っています。どうぞ旅の仲間となって楽しんでくださいね。
前のシリーズでは南イタリアを巡りましたが、このシリーズでは北イタリアへ。

 イタリアの街は、それぞれが都市国家としてそれぞれの歴史を生きてきました。街によって個性はさまざまです。北イタリアを巡る旅、まずは、現代イタリアの経済やファッションの中心地、ミラノ(Milano)から始めましょう。
ミラノの起源は古く、紀元前6世紀頃のケルト人の街から始まります。レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」(L’Ultima Cena di Leonardo da Vinci)はもちろん、美術館、教会など至宝がたくさん。見るべきものの多い活気ある街。

 街の中心に位置する、巨大なドゥオーモ(Duomo、大聖堂の意)は壮麗で圧倒的です。14世紀に着工されて、完成したのは500年後の19世紀ですから、なんという壮大な話でしょう。学生時代に初めて見たときにはどこかよそよそしくも感じられて、なんとなく好きになれない気もしてしまったものでした。煌びやかで引け目を感じてしまったのかもしれません。それは街全体に対してもそうだったかもしれないけれど。学生最後の春休みに北・中部イタリア〜フランスの美術館と教会を見てまわり、その後イタリアは10回ほど訪れて、ミラノは学生のとき以来です。映画は美術、職人の技術やモードのことも以前より知った今、ミラノは堂々たる大人の街だなあ、と感服します。

ドゥオーモ
隣の20世紀美術館から見る姿
ドゥオーモの中

 このドゥオーモの屋上の美しさは格別です。林立する聖人像群、あふれる植物モティーフの装飾! 石づくりの森、とでも呼びたくなります。そして、ガーゴイル(フランス語ガルグイユgargouilleから。怪物の形の石像で、雨樋の機能をもつ。イタリア語ではドッチオーネdoccione)たちもミラノの街を見はるかして、守りを固めています。
 イタリア映画の巨匠ルキノ・ヴィスコンティは映画『若者のすべて』(原題は“Rocco e i suoi fratelli”、直訳すると「ロッコとその兄弟」)で、アラン・ドロンと恋人の別れの場面をこの屋上で撮っていました。そのスチールの使われていたポスターが素敵だったなーなんて思い出します。

こんなところにも植物が

 さて、街の中心でもあるドゥオーモからダンテ通りをまっすぐ行くと、スフォルツェスコ城(Castello Sforzesco)へ至ります。いかつい城塞を抜けた先は、センピオーネ公園(Parco Sempione)です。大きな樹木も多い広大な公園で、かつては城主が猟をしていた森の一部ともいわれていますが、今は市井の人たちがのんびりと憩います。

 ニンフ(妖精)の住んでいそうな水辺にくると、ギリシア神話のあの有名なナルキッソスの話が思い出されます。
 ナルキッソスは河の神ケフィソスと、青い水に住む妖精レイリオペの息子です。小さい頃から愛らしい姿で皆を魅了しました。美しい容姿に成長して、妖精や娘や青年からも言い寄られますが、彼は思いあがりの強いところがあって、誰のことも愛しません。それどころか、相手を傷つけても平気でした。
 ついに、彼に蔑まれた若者のひとりは、天に祈りました。「彼も恋を知りますように。けれど、その恋が叶うことはありませんように」

 あるとき、木立のなかの澄んだ泉のほとりにやってきたナルキッソスは、青草の茂みで休んで泉の水を飲もうとします。すると、銀色にきらめく水のなかから自分を見つめる美しい少年を見て、ひと目で恋に落ちたのでした。けれども、触れようとして水のなかへ手を差し出すと、その姿は掻き消えてしまいます。
 どれほど懇願したり、狂乱状態となったり、ため息をついて嘆いたりしたことでしょう。そのうち食べることも寝ることもできなくなって、やがてはやせ細って衰えて、青草に身を横たえたまま、その若い命は尽きました。彼は死後の世界へ下ってからもなお、冥府の河に映る自分を見つめていたといいます。

 彼の姉妹の水の精たち、森の精たちが嘆き悲しみました。
 葬儀の松明や棺が用意されたけれども、亡骸は見あたりません。かわりに、水仙の花が咲いていたということです。

では、神話の世界から現代へ戻りましょう。ミラノでは、今評判!というリストランテを予約して行ってみました。前菜のお皿になぜか小石がのっています。まるで樹のように見える、葉脈のくっきりとしたキャベツで覆われたお料理。自然やエコロジーを意識しているようです。メニューは詩のように書いてあって、なかなか素敵でした。
 お洒落した老若男女であふれて満席、みんなよく喋ってさすがに賑やかです。ミラノ的な夜を、楽しくすごせました。

小石ののった前菜のお皿 
中に入っているのはお肉

 そして、ブレラ絵画館(Pinacoteca di Brera)のピエロ・デッラ・フランチェスカの、空間に「卵」の下がる不思議な絵には、やはりどうしても再会したかった。この静かで饒舌な「卵」を見るためだけにでも、またこの街を再訪したくなってしまうようです。

 次回は、スイスとの国境も近い、美しい湖水地方へ。

( 南イタリア編は、以下のリンクでお読みいただけます。
「神話と植物の物語―南イタリア紀行―」
① vol.1 前編
http://hanatsubaki.shiseidogroup.jp/now/4811/
② vol.1 後編
http://hanatsubaki.shiseidogroup.jp/now/4823
③ vol.2 前編
http://hanatsubaki.shiseidogroup.jp/now/5129/
④ vol.2 後編
http://hanatsubaki.shiseidogroup.jp/now/5172/
⑤ vol.3 前編
http://hanatsubaki.shiseidogroup.jp/now/5475/
⑥ vol.3 後編
http://hanatsubaki.shiseidogroup.jp/now/4811/

クリエイターの紹介

乾 ゆうこ

ライター

ホリスティックハーバルセラピスト。大学時代に花椿編集室に在籍し、「ザ・ギンザ・アートスペース」(当時の名称)キュレーターを経て、ライター・エディターとして活動。故・三宅菊子氏のもと『フィガロ・ジャポン』『家庭画報』などでアート・映画・カルチャーを中心に担当。出産を機に伝統療法や自然療法を学び、植物の力に圧倒される。「北イタリア植物紀行(全4回)」「アイルランドから〜ケルト植物紀行」(ともに『クレアボー』フレグランス・ジャーナル社)など執筆。生活の木(表参道校)では不定期にクラスを開催している。

もっとみる

こちらもおすすめ