次の記事 前の記事

Now, Then!

「あなたにとって美しい世界とは?」インタビューvol.4

2019.09.12

文/小川知子

写真/MASA HAMANOI

『花椿』夏号の「Beauty Innovations」特集からスタートした、本企画。さまざまなフィールドで活躍する方に「あなたにとって美しい世界とは?」という問いを投げかけています。
今回はペインティング、テキスタイル、写真、映像、そして出版などジャンルの垣根を越えて創作活動をする、アーティスト、Johanna Tagada(ジョアンナ・タガダ)さんに、暮らしから生まれる作品やいまの世界、環境について考えていることをお聞きしました。

ー日常の小さな気づきや実践が創作のインスピレーションになっているのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

幼少期の体験ですね。フランスのアルザスで生まれて、祖父母がパーマカルチャー(パーマネント〈永続性〉と農業〈アグリカルチャー〉、そして文化〈カルチャー〉を組み合わせた言葉)農園やガーデニングをやっていて、とてもベーシックだけどすごく幸せな生活を送っていたんです。パステルカラーの家々に、ハンドクラフト、ペインティングが当たり前にあって、 洋服をつくったり、リペアしたり、いつも忙しそうに手づくりの生活をしていて、子どもながらにそういう毎日がすごく楽しくて、そんな生活が好きだったんですよね。何かをつくることはその頃から大好きで、美術学校へ行ってからも、いまもそれは変わりません。

ー現在はロンドンという都会を拠点にされていますよね。

都会に出て気づいたことは、日常が地方の生活とは全く違うということ。「都会であなたはどれだけ自然な生活を送れているか?」という議題について友人とよく話すんです。たとえば、生理が来ても働かなきゃいけないから、薬を飲む。トマトを育てている時間はないから、トマトを買う。家族と過ごす時間も生活を楽しむ余裕もない。それが一般的な状況ですよね。モダンライフはスピードが速すぎて、ライフの部分が欠けてしまう。だから、私の関心は、常にライフとものづくりにあって、私自身は自然にも街の中心部にも近いイーストサイドに住んでいますが、アトリエを小さな自分の世界と思って、小さな庭で小さめの野菜を育てながら生活しています。

ー現在、渋谷のギャラリーTotodoにて個展「Tamil Diary」(~9月28日まで)が開催されていますが、南インド・タミルをテーマにした経緯は?

2018年の12月から今年3月までの4カ月、タミル・ナドゥで滞在制作をしまして、そこでつくった、手漉きの紙、紙のコラージュ、ペインティング、写真、映像と異なるメディアを使った作品を集めた日記のような展示なので「Tamil Diary」と名付けています。タミル・ナドゥには、国際的なエコビレッジ「オーロヴィル」という場所があり、その建築とコンセプトにずっと興味があって、2017年に休暇で訪れたときに、すごく気に入ってしまったんです。手漉きの紙をつくる方法をもっと知りたい!と思って、オーガニックコットンTシャツをつくる際に出てしまう不要なパーツでできたリサイクル繊維で紙をつくる施設を再度訪ねるところから、今回の滞在制作は始まりました。

ー同じく、恵比寿のnidi galleryでも、ご自身が主宰されているコラボレーションプロジェクトPoetic Pastelのグループ展「TEA TODAY」(~9月13日まで)が同時開催されていますね。このプロジェクトは、どのように生まれたんですか?

私はいろんな人とコラボレーションをするので、それらを一気に集められる家のような自由なスペースがあるといいなと思っていて、私が直でかかわることがなくても、周りのみんなのための開かれた場所を作りたいというアイディアでした。基本的には私と夫ジャティンダー・シン・ドゥハレ、ナオイ・マガキの三人が中心になって2014年頃から活動していますが、これまでもテート・モダンのような美術館やカフェ、農家ともコラボレーションをしてきましたし、さまざまなコントリビューターが出たり入ったりしています。

nidi galleryの展示風景
Photo by Kenji Kagawa

ーPoetic Pastelの名前の由来は?

Poeticは感覚や感情のことで、Pastelは明るい色を意味しています。ネガティブなことが世の中には多すぎるから、ポジティブをシェアして、明るい話をしようということが裏テーマなんです。たとえば、「都心で静かな音を探す方法」だったり、「地球のためのお願い事」などというお題で、コントリビューターに誰でもすぐ実践できるようなリストを書いてもらって、リサイクルペーパーにプリントして無料配布しています。人生や視点をポジティブに変えるヒントは身近にある、ということを伝えたくて。2015年に出版部門としてPoetic Pastel Pressを始めて、お茶文化に関する雑誌『Journal du Thé』もそこから出版しています。

ージョアンナさんもリストづくりは好きなんですか?

コンテンポラリーダンスをずっとやってきたんですが、何度も同じことを繰り返さないと上達しないんですよ。だから、自分ルールを決めることは好きだし、いいことだと思う。たとえば、毎週日曜はコンピューター、インターネット、テレビはすべて断つことに決めています。あと、私はファッションもすごく好きなんですが、もう十分服を持ってるから、今年から1シーズンにつき1アイテムだけ買う、と決めて。そうすれば、慎重に選ぶようになるし、それ以外は自分でつくろうと。自分の服に飽きたら、友達と交換したりもします。

ーペインティングだけじゃなく、テキスタイル、写真、映像、出版など様々な方法をつかって作品を生み出す、その自由な感性はどこからきたものだと思います?

私は自由な人間なので(笑)。でも、そのなかでもメインとなるのは何かと聞かれたら、やっぱり、ペインティングと答えるかな。私の中心で、ソースとなるものだから。やめる気はないですが、写真とかそのほかのものはやっていない自分を想像できる。でも、ペインティングだけは悲しすぎて想像できない。私にとって、喜びであり、苦しい挑戦でもあって、すごく生命を感じる行為ですね。

nidi galleryの展示風景
Photo by Kenji Kagawa

ー自分の描くものに退屈しないよう、常に挑戦しなくてはいけないですもんね。

そうなんです。nidi gallery では、女性のポートレートのペインディングをヘッドフォンで聴ける音声と一緒に展示していますが、これも私にとっては挑戦でした。私の作品は、ほとんどが何らかのトピックについて公の場で人と本音で話すことなんですよね。今回の音声のひとつは、子どもをもつことについてトピックにしています。30前後の女性にとっては、すごくストレスフルな話題ですよね。でも、この音声は一人で聞くことができるから、「私も」と思うかもしれないし、まわりの誰かのことを想像するかもしれない。自分だけじゃないんだと楽になったり、誰かに話してみようと思うきっかけになるかもしれません。

ーいま世界はさまざまな問題を抱えていますが、どんな世界であってほしいと思いますか?

いまは、自分で自分を大事にすることがトレンドになっていますよね。自分にフォーカスすべきという思考が行き過ぎているんじゃないかなと。このトレンドはそろそろ変わるべきで、もっといい自分になるためには、自分のことだけを学ぶのはやめないと。他人のことを学ぶことこそが、自分を知ることにもなるから。たとえば、ドイツ語や日本語のような新しい言語を学習しているとき、違いを前にして、母国であるフランスの人ってこういう考え方をするなと気づくことはよくあります。いろんな国を旅しても、もっと自分が親しみやすく、寛大になれたらと思う。それは、自分をケアしているだけでは知り得ないことですよね。

ー確かに、その通りだと思います。

もう一つあって、多くの人が土壌の大切さを忘れていると思う。都市に住んでると、プラスティックは分解できないことを知らない人が多いし、リサイクル資源になると思ってる人が多い。それは、土壌について学ぶ機会がないから。今回の展示のために、生分解性プラスチックの梱包材を使って作品を輸送したんですが、実際に家のコンポスト(都市ごみや下水汚泥などを発酵腐熟させた肥料のこと)に入れて分解するか試してみたんです。2か月後には、ちゃんと土になってました。時間はかかるけど、実用的な知識になったなと。情報から得た知識で頭の中だけで考えていても、エラーは起きない。エラーが起こるのは当たり前のことだから、まずはトライして学んでいくことが大事だなと考えています。

Photo by Kenji Kagawa

ー最後に、ジョアンナさんにとって、「美」は何を意味しますか?

「美」は、自分の外の世界の日常の、すごく小さなところにあるものですね。でも、自身の美に関して言うと、自分で見出すものじゃなく、人が見出すものなんじゃないかと。自分の目を通しては見えないから、鏡だって美を見せるものじゃないと私は思っていて。たとえば友達が、自分の顔のパーツで自信がないところについて話していて、でも私にとってはそこがいちばんの魅力として映っているから、「嘘でしょ!」と思うことってよくあるんです。魅力的と思っていると相手に伝えることもすごく重要。私は友達をよく褒めますけど、それは私も褒めてほしいからじゃなくて、褒めることが世の中にもっとあっていいと思うから。みんなもっと褒め言葉を声に出して言ったらいいのにって。

ー根底にあるのは、やっぱりコミュニケーションなんですね。

そうですね。雑誌『Journal du Thé』のアイディアは、お茶はどのカルチャーにもあるし、戦うのではなく話をするきっかけを与えてくれるというところから生まれました。上質なお茶である必要はなくて、ティーバッグでも何でもいい。誰もが参加できて、たとえ、意見の合わない人であっても、一緒に座って、お茶を味わう時間を共有することができる。この雑誌をコミュニケーションのプラットフォームにして、アイディアや考え方をシェアできたらと。私は、人間はみんな奥深くでは似たような問題を抱えていると思っていて、だから正直に、シンプルに話をすれば、共感し合えるんじゃないかなって。大人になるといろんなフィルターをかけすぎて、結果鬱々としてしまう人が多いので、そうやって取り繕ってしまうフィルターを取り除いていけたら、と思っています。

Johanna Tagada (ジョアンナ・タガダ)
1990 年フランス生まれ、ロンドン在住。ペインティング、ドローイング、インスタレーション、彫刻、映画、写真、など様々なメディアを用いるアーティスト。グループ展多数。個展としては「Épistolaire Imaginaire - Merci 」(Galerie Jean-Francois Kaiser, 2017)、「Take Care - きをつけて」(Nidi Gallery, 2018)。 2014 に、コラボレーション プロジェクトPoetic Pastel を設立。2018 年に出版プロジェクト「Journal du Thé - Contemporary Tea Culture」始動。2018 年には 最初の作品集「Daily Practice」(InOtherWords) が出版されている。
https://www.johannatagada.net/
@johannatagada

≪展示詳細≫
nidi gallery
会期:~9月13日(金)
時間:13時~20時
場所:東京都渋谷区東2-27-14
ペガサスマンション恵比寿#102
https://nidigallery.com/

Totodo
会期:~9月28日(土)
時間:12時~20時 ※日曜休
場所:東京都渋谷区鶯谷町5-7-1F
https://totodo.jp/hpgen/HPB/entries/44.html

クリエイターの紹介

小川知子

ライター

1982年、東京生まれ。上智大学比較文化学部卒業。雑誌を中心に、インタビュー、映画評の執筆、コラムの寄稿、翻訳など行う。共著に『みんなの恋愛映画100選』(オークラ出版)がある。
https://www.instagram.com/tomokes216
https://twitter.com/tometomato

MASA HAMANOI

写真家

遊びゴコロとユニークな視点で紡ぐ"PLAY"シリーズで写真作品を制作、写真展を開催。
http://masahamanoi.com

もっとみる

こちらもおすすめ