次の記事 前の記事

Now, What!

偶然のすべて ― 映画『泳ぎすぎた夜』

2018.04.06

文/岡澤浩太郎

子どもにだっていろいろと事情はあって、なんだかんだで毎日忙しい。やりたいこともあるし、やり方だって自分でちゃんと決めている。それが大人の理屈と違うことだって、ちゃんとわかってる。だから、「子どもはいいよな」っていう目でよく見られるけど、そんなに楽なものではないし、純粋とか野性とか言うのは勝手だけど、そうやって決めつけられても困る。子どもは子どもで大変なのだから。でもね、大人には子どもがうらやましいときもある。だって過ぎてしまったものは、やっぱり懐かしいから。

『泳ぎすぎた夜』4月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開 ©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD

映画『泳ぎすぎた夜』は、ダミアン・マニヴェルと五十嵐耕平の二人による共同監督作品としてつくられた。ある映画祭の一席で居合わせた彼らが意気投合し、二人で映画をつくることを思い立ったという。静かで、やさしい物語だ。舞台は青森、小さな町の冬。少年はある日、学校をさぼって、自分の背丈より高く雪の積もった道を、ひとりで進んでいく。手には絵を一枚持っている。前の晩、眠れなくて、描いて遊んでいた魚の絵を、魚市場で働く父親に届けるためだ。

©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD

「雪にはメランコリーが、子どもにはソリチュードがある。その組み合わせがとてもきれいだと思った。僕が育ったフランスの海の方は雪がなかったけど、毎年スキーをしにアルプスに行っていた。それがとても楽しみだった。すごくきれいで、雪の音も好きだった」

監督のひとり、ダミアン・マニヴェルは言う。冒頭のシーン。夜の、深い闇の奥から、たどたどしく舞い降りて来る、真っ白な雪が、美しい。あるいは少年が、持て余したのか、雪原をうろうろとして、ばたりと倒れこむ、そのこんがらがったような、足跡。電車を待つ間に鼻歌を歌い、雪玉をつくってカーブミラーに投げつける。犬に吠えられれば面白がって吠え返し、疲れたら人の車に勝手に上がり込んで寝る。彼にとってはまっすぐだけれど、大人には蛇行に映る、その秩序に、つい見惚れる。もうひとりの監督、五十嵐耕平は言う。

ふたりの監督、ダミアン・マニヴェル(左)と五十嵐耕平 Photo / Hiroki NISHIOKA

「すごくやさしかったり、別れる時に寂しそうにしたり、かと思うと『帰ればいいじゃん』と格好つけたり。主人公の古川鳳羅(こがわ・たから)君はすべての感情が同じレベルで出てきて、すごく複雑なんです。そのエネルギーがすごかった。彼は普段の生活では手を焼く子どもなのでしょうし、コントロールしてつくる映画の世界からは排除されてきた存在だと思う。でも、たとえば彼が手袋を落としたときも、そういう偶然性にオープンでいると、日常で普通に起こることが、奇跡的なすばらしい瞬間になるんです」

劇中より ©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD

目の前で起こった何かに、リスクという言葉を当てれば避けたくなるが、奇跡だととらえれば尊くなる。劇中、少年はよく眠る。大きな寝息をたてて、深く、重く、あたりかまわず寝てしまう。周りは見ている。眠る彼を見ている。さんざん暴れて散らかしても、子どもの寝顔には結局は勝てないことは、大人はよくわかっている。人の親でなくとも、きっと。

©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD

『泳ぎすぎた夜』作品情報
(仏題:La nuit ou J'ai nage)
出演:古川鳳羅、古川蛍姫、古川知里、古川孝、工藤雄志
監督:五十嵐耕平 & ダミアン・マニヴェル
プロデューサー:ダミアン・マニヴェル、マルタン・ペルティエ、大木真琴
撮影監督:高橋航
編集:ウィリアム・ラブリ
カラリスト:ヨブ・ムーア
音楽:ジェローム・プティ
制作プロダクション:NOBO
製作:MLD Films
配給:コピアポア・フィルム+NOBO
配給協力:フルモテルモ
2017 / フランス・日本 / DCP / 4:3 / カラー / 5.1ch / 79分
©2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD

公式ウェブサイト:http://oyogisugitayoru.com/

クリエイターの紹介

岡澤 浩太郎

編集者

雑誌『STUDIO VOICE』編集部などを経てフリーランス。『murmur magazine for men』、林央子『拡張するファッション』、芸術祭のガイドブック、『TRANSIT』などの編集・執筆に携わる。趣味はボルダリング(1級)。

もっとみる

こちらもおすすめ