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Now, Then!

ソフィア・コッポラと同時代を生きること

2018.02.23

文/花椿編集室

今から遡ること23年前。1995年の弊誌『花椿』4月号で、当時23歳だったソフィア・コッポラ(当時の肩書きは『女優』)はインタヴューの中で将来のことを聞かれ、このように答えている。
「困ったことにたくさんのことに関心があってひとつに決められないんです。クリエイティブなことをやりたいのは確かなんだけど」

フランシス・フォード・コッポラを父にもつ彼女は生まれたときからすでに“映画”というフィールドは見えていたと思うけれど、“自分の生きる術としての映画”を確信する機会はまだもう少し先にあったようだ。そのように語っていたソフィア・コッポラは今年、自身6作目となる作品『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』を発表した。

©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』の日本公開に先立ち来日したソフィア・コッポラにインタヴューをする機会を得たので、まず冒頭にその23年前の誌面を差し出すと驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべた。
「あの頃は大学を出たてで、自分自身でなにをやっていきたいかということがわからなくて混乱していたんだと思います。20代はきっと誰もがそうだと思うんだけど。行き先がわからないような気持ちだったのね。迷いながら写真や音楽、ファッションなど色々試す中で、改めて映画と向き合ったときにすごくほっとした気持ちを覚えています。映画はファッションや音楽、写真等々、私の好きなことを網羅できるから。『これだ!』と思ったんです」

一つずつ、少しずつ、確かめるように作品を発表するソフィア・コッポラの映画作りに対する信条は、とてもシンプル。自分が作る作品が本当に心から愛せるもの、信じられるものであることだ。
「思慮深くアートの趣きに満ちていて、どこかに自分自身を表現することを心がけています。何でもいいというわけではなくて、やっぱり誠実に映画を作りたい。自分が心から伝えたいと思った物語を作りたいんです」
彼女のそのことばに表されるように、ソフィア・コッポラが創作のときに従うのはなによりも自身のハート。なので作品のテーマをなぜそれにしたのかと訊かれたときに自分でもなぜそれを選んだのか謎であることも多いそうだ。

©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

では本作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』はどのように着想を得たのだろうか。前作の『ブリングリング』はデジタルが支配する2000年代を生きるティーンエイジャーたちを主人公に現代社会の縮図ともいえる世界観を描いたが、それを作り終えた後で、次回作は、時代も異なるまったく違った美しい世界を描きたいと思ったという。
「もともと南北戦争時代に興味があったんです。とくに当時南部に暮らす女性たちに関心があって、そんなときにちょうどトーマス・カリナンが著した本作に出会って。南北戦争を背景に、今現在も繰り広げられている男女の力関係、愛憎劇を描いてみたいと思いました」

負傷した北軍兵士マクバニー伍長役のコリン・ファレルと年長の生徒エドウィナ役のキルスティン・ダンスト ©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

カリナンが描く物語は、南北戦争の戦火絶えない1864年のバージニア州を舞台に、深い森の中でひっそりと7人の女性が暮らす寄宿学園で、負傷した北軍兵士をかくまう場面から始まる。一人の男性の登場によって、しだいに均衡を崩すそれぞれの関係性。戦争という厳しい状況下であらわになる男女の欲望が描かれたこの物語は、『ダーティ・ハリー』の監督として知られるドン・シーゲルによって71年に『白い肌の異常な夜』という邦題で一度映画化されている。シーゲル版は負傷した北軍兵役のクリント・イーストウッドの視点で物語が描かれるのに対し、ソフィア・コッポラの作品は教師役を務めるニコール・キッドマンら女性たちの視点で物語が展開していく。
「原作は物語自体が深く暗いムードに覆われています。その中で、私はシーゲル監督とは異なるアプローチで、あくまでも自分なりの繊細でフェミニンなタッチで、男女のかけひきを描きたいと思ったんです」

教師役のミス・マーサ役を務めたニコール・キッドマン ©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

ソフィア・コッポラ自身はあくまで原作に基づいて創作したと説明していたが、それでもシーゲル監督作品との違いを意識することは多分にあったと思う。インタヴューの中でソフィア・コッポラが何度も「対比」を強調していたように、「対比」という考えはこの作品の制作の始まりから物語の中まで、至るところに遍在する。たとえば、北と南、男と女、そして女性たちの異なる年代などの間に。

異なる年代についていえば、3人の主要キャスト、教師ミス・マーサ役のニコール・キッドマンと年長のエドウィナ役のキルスティン・ダンスト、そして年頃のアリシア役のエル・ファニングの役どころの違いを、ソフィア・コッポラはこのように考えたそうだ。
「女性は年代によって男性に求めるものが違ってくると思うんです。ミス・マーサは年齢的にも大人ですから、結婚は考えていないけれどアダルトなパートナーを求めている。生徒の中で一番年長のエドウィナは恋人、そしてしいて言えば後に夫となる相手を求めている。年頃のアリシアは性の目覚めの時期なので、男性への純粋な興味が先立っている。一方でマクバニー伍長(コリン・ファレル)という男性も、彼女たちの年代に合わせて異なる男の一面を見せています。異なる人生のステージに立つ人々がどのような心境で、どのような態度を示していくか。その点が脚本を書く上で大事なポイントでした」
様々な年代の心境をリアルに描けたことについては、彼女自身が人生経験を積んだ今だからこそ作ることができた物語だともソフィア・コッポラは言及している。

アリシア役のエル・ファニング ©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

もうひとつ、ソフィア・コッポラの作品ではいつも重要なファッションも、今回は「対比」の要素として存在している。
「男性が命をかけて戦っているハードな世界との対比を強調するために、彼女たちをよりいっそうエレガントに演出する必要がありました。アメリカに“サザン・ベル”という昔からのことばがありますが、それは物腰柔らかく美しい南部の女性を指すことばなんですね(日本でいう「秋田美人」のような意味)。それを象徴するのが真っ白でたっぷりとしたロングスカートや、すっと伸びた美しい背筋などです」
とくにニコール・キッドマンとキルスティン・ダンストの役どころは、そのような環境で育てられた女性として置かれているという。

©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

本作はキャストも興味深い。ソフィア・コッポラが「彼女のおかげで、悪女になっても当たり前なこの役が本当に人間味あふれる役柄になった」というミス・マーサ演じるニコール・キッドマン。コリン・ファレルの起用は意外だったけれど、それはマクバニー伍長がアイルランド系であるという原作に忠実な配役で、原作への敬意がうかがえる。そして処女作『ヴァージン・スーサイズ』からの付き合いのキルスティン・ダンストに関しては、彼女自身の成長をソフィア・コッポラの作品に見るところもあるけれども、本作では抑圧的で生真面目なエドウィナという、本来の性格とは正反対の役どころを与えて、キルスティン・ダンストの新しい魅力を引き出した。その意味で、『SOMEWHERE』から一転、挑発的なアリシア役を務めたエル・ファニング、そして私生活のパートナーでもあるトーマス・マーズ率いるフレンチ・ポップバンドのフェニックスに本作にふさわしいミニマルな音楽作品を求めたことは、全員にとっての新しい境地を拓いたこととして本作の意義を深めている。
「彼らに対してもそうですが、新しい企画に取り組むときには常にこれまで自分がやったことのないもの、自分の限界をどんどん押し広げて行きたい、挑戦していきたいという気持ちをもって臨んでいます。本作ではとくに娯楽性とアート性の両立を証明したいという気持ちがありました。そして自身初めてのスリラーというジャンル映画ということで、結果的に見て、一般的なスリラー映画ではなく、あくまで自分のスタイルでスリラーの作品を作れたことを嬉しく思っています」

すでに報じられているように、本作でソフィア・コッポラは昨年の第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で女性として史上二人目となる監督賞を受賞している。そのように今では映画監督として大成している彼女も、23年前は自分の生き方に迷いがあったということは大事な要素である。悩みながら試行錯誤してきた軌跡がこれまでの作品の数々であって、それら一つひとつの作品を同時代的に辿ってきた私たちはきっと、彼女の生き方に自分自身の姿を投影しているのかもしれない。年を重ねるごとに、創造表現と人間としての豊かさを増していく彼女の生き方を指針に、同じ時代を生きている部分があるかもしれない。だから私たちは彼女に対してこんなにも関心があるのだ。

撮影現場では女性にとって居心地のいいセット環境を整えて、参加した人が心から楽しんでくれる場作りに努めており、近年の女性監督の躍進を嬉しく思っているという。彼女自身がとても大きな改革をしているはずなのにそれが極めて自然で、スムーズに見えるのは彼女の魅力がさっぱりしているから。自身、「映画はShort & Sweet(さっと楽しんでぱっと終わる)でなくちゃ」とも言っている。そういう感覚が清々しくて今の気分にぴったりで、それだからこそ私たちは彼女から目が離せない。

ソフィア・コッポラの存在はこの時代を象徴する。そんな彼女の作品を同時代的に体験できることは、この時代を共に生きる私たちにとって幸福なことのひとつではないだろうか。

今回の来日時に撮影されたポートレート 撮影/ホンマタカシ

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』映画情報
監督:ソフィア・コッポラ(『SOMEWHERE』、『マリー・アントワネット』、『ロスト・イン・トランスレーション』)
出演:ニコール・キッドマン(『LION/ライオン~25年目のただいま~』、『めぐりあう時間たち』)、エル・ファニング(『ネオン・デーモン』)、キルスティン・ダンスト(『マリー・アントワネット』)、コリン・ファレル(『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』)
2017/アメリカ/93分/英語/ヨーロッパビスタ/ドルビーデジタル/原題:The Beguiled
提供:東北新社
配給:アスミック・エース STAR CHANNEL MOVIES
宣伝:REGENTS
2月23日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開
http://beguiled.jp/

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