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Now, What!

謎めいたエキセントリックビューティー

2016.07.12

文/呉 佳子

現代アーティストの村上隆さんが著書『芸術闘争論』(幻冬舎)の中で、西欧の現代美術界で好まれやすい5大コンテクストを「自画像、エロス、死、フォーマリズム(歴史)、時事」としている。

ファッショントレンド分析でも応用できそう、とつねづね考えているのだが、なかでも「死」にまつわるダークでおどろおどろしいイメージや、謎めいた、退廃的なといったキーワードは、それこそ頻繁にトレンドとして登場する。

装飾性がぐっと高まったこの秋冬は、多色使いや柄×柄のマルチミックススタイルが加速中。マルチミックス=様々な要素の掛け合わせが進んでいくと、ファッションのタブーも厭わない、ある意味、悪趣味なスタイルにさえも、美しさを見出す傾向が出てくる。なので今季のミステリアスなスタイルには、エキセントリック(奇抜な)要素が味付けされるのが特徴的だ。

ドリス ヴァン ノッテンのインスピレーションは20世紀前半、ヨーロッパの社交界で話題を振りまいた人物で、当時“最もスキャンダラスな女性”と評されたカサティ侯爵夫人。(写真下)

「生きた芸術作品になりたい」と語っていた言葉に違わず、虹色のネックレスのように蛇をまとったとか、ダイヤモンドのスタッズ付きリードに繋がれたチーターをお供に散歩(さらに本人はゴージャスなファーコートのみ身につけ、その下は全くのヌード)とか、電球で覆われた発電機付きの光るドレスで現れた、などと逸話には事欠かない。

the Marchesa Luisa Casati (c)Adolph de Meyer / Conde Nast Collection / Getty Images

革新的なファッションスタイルにヘア&メークも引けを取らず、炎のような赤毛に、顔は白粉を塗り込んで真っ白に。木炭で縁取るスモーキーアイズの眼力は壁さえも射抜きそう。ミステリアスという形容詞では収まりきらない凄みと迫力が、ピカソや写真家マン・レイ、小説家プルースト、バレエ・リュスを率いた芸術プロデューサーのディアギレフなど、数多の才能を惹き付けた。

カサティ夫人とは、生前はもちろん死後半世紀以上経った今でも、アーティストたちの創作意欲を刺激するミューズの中のミューズなのだ。

そんな強烈な個性を自らのものにして新たなクリエーションを生み出すには、創作者にもそれなりの力量が必要とされる。その点、ドリスは2014年にパリ装飾美術館での個展で自らのクリエイティビティの源泉を披露し、業界内外から称賛されたように、カサティ夫人のインパクトを凌駕するほどの豊かな想像力の持ち主。 

今季のコレクションへの落とし込みも、夫人と愛人関係にあった詩人、ダヌンツィオのダンディな要素を持ち込んで、マスキュリンフェミニンなスタイルを基本とした。いつになく柄モノが多く、ファーやフェザー、ヒョウ柄、大量のパール使いなど夫人を思わせるギラついたモチーフを取り込みながら巧みに大人のエレガントスタイルへと昇華させた。

all photos Dries Van Noten 2016-17 Fall-Winter Collection

どう奇抜に遊ぼうとも、芯にはエレガントなエスプリが息づいている。カサティ夫人が単なる変人ではなく、多くの天才を魅了しミューズとなりえた理由をドリスの今回のコレクションが改めて教えてくれた。

クリエイターの紹介

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る……だけならカッコいいのですが、家では2児の世話に髪を振り乱す毎日。長男進学につき、ウワサに聞く“小一の壁”の洗礼を受けています。おしゃべりが上手になった2才の長女は最近「はぁー、つかれた!」「腰イタイ〜」と言い出して……。自分の口癖を反省中。

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