次の記事 前の記事

Information

ジョーン・ジョナスの最大規模の個展が京都で開催中

2019.12.27

文/住吉智恵

Performance of “Reanimation” in Celebration of Kyoto Prize Laureate Joan Jonas
Photo: Yoshikazu Inoue

1970年代にパフォーマンスとニューメディアの融合による新たな表現を確立し、83歳を迎えたいまもなお現代美術の最先端を疾走し続けるアーティスト、ジョーン・ジョナス。近年ではドイツの国際展「ドクメンタ」、イギリスのテート・モダン美術館で大規模な回顧展を開いています。第34回京都賞受賞を記念し、日本では過去最大規模となるジョナスの個展『Five Rooms For Kyoto: 1972–2019』が京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催中。昨年12月に京都ロームシアターで開催されたパフォーマンス公演と本展覧会をジョナスのインタビューとともにお伝えいたします。

Performance of “Reanimation” in Celebration of Kyoto Prize Laureate Joan Jonas
Photo: Yoshikazu Inoue

 舞台の下手にはグランドピアノと1人がけのカウチ。上手には書画カメラとパソコンを設置したテーブル。ジャズピアニストのジェイソン・モランが配置につき、ジョーン・ジョナスが低いアルトの声で朗読を始めた。
 一夜かぎりの上演となったパフォーマンス作品《Reanimation》は、アイスランド人の作家ハルドル・ラクスネスの『極北の秘境』(1968)からインスピレーションを得ている。ジョナスは氷河や自然についての詩的な言葉を舞台上で引用する。インタビューでは、その氷河が地球温暖化により溶け始めるよりも遥か前に、この小説で預言めいた記述がなされていたことも強調していた。

Performance of “Reanimation” in Celebration of Kyoto Prize Laureate Joan Jonas
Photo: Yoshikazu Inoue
Performance of “Reanimation” in Celebration of Kyoto Prize Laureate Joan Jonas
Photo: Yoshikazu Inoue

 大スクリーンには極北の荒涼とした自然と、一見関連性のない暗示的なカットが映し出される。さらに鮮烈なドローイングを描き、タールのように黒々とした絵の具に氷片を混ぜあわせるジョナスの手もとの映像をライヴで重ねていく。起伏に富んだピアノの演奏がしだいに高揚すると、ジョナスもまたステージに広げた紙に大きな筆で軽々と動物の姿を描き、ハンディな打楽器を銀髪を振りながら打ち鳴らす。凝縮された時間のなかで、演者であるジョナスの身体と、映像、音、そして表現のカギを握る多様なプロップ(演劇の小道具を意味する)が絡みあい、多層的で豊潤な作品世界を織り上げていった。
 「西洋の演劇のほとんどはテキストがベースですが、日本の能では音楽や拍子木などの音、演者の手や足のムーブメント、シンプルな小道具などが、複数の物語を引き出す特殊な効果をもたらしている。そのシンプリシティから強く影響を受けました」(ジョナス)

Performance of “Reanimation” in Celebration of Kyoto Prize Laureate Joan Jonas
Photo: Yoshikazu Inoue

 一方の展覧会では、この《Reanimation》を含む5つの展示室で、ジョナス作品の重要なキーワードとなるフェミニズム、神話や物語、環境問題などを辿る。同作のインスタレーション展示では、かつて日本滞在で着想を得たという障子のようなスクリーンに囲まれ、ここでは鑑賞者の身体が空間に投入される。ドローイングの手もとを映す映像のほか、《My New Theatre》と呼ばれる角錐形の劇場空間でモチーフを発展させた作品が上演され、多角的な視点から濃密な作品世界を回遊することができた。
 また、1970年代にジョナスがパフォーマンス表現を開始した初期のモノクロの映像作品では、ときにはヌードでカメラの前に立ち、自身の身体を介してさまざまな事物の周囲にある物語を引き出そうするアクションを投影する。

Photo by Takeru Koroda, courtesy of Kyoto City University of Arts
Photo by Takeru Koroda, courtesy of Kyoto City University of Arts
Photo by Takeru Koroda, courtesy of Kyoto City University of Arts
Photo by Takeru Koroda, courtesy of Kyoto City University of Arts

 ジョナス曰く「私にはカンパニー(会社・仲間)というものはない」という。つまり現在はアシスタントが1人いて、必要に応じてほかの出演者や技術スタッフと恊働するが、「基本は自分1人ですべてを行ってきた」ということだ。今回のパフォーマンス公演を観ているとき、そのことを強く感じた。それは舞台と観客席が向き合う劇場構造のなかで、カンパニーやチームではなく「ひとりの作家」と私(鑑賞者)が対峙している、という特異な関係性をジョナスの作品から受けとったからだ。

 ところで東京のギャラリー、ワコウ・ワークス・オブ・アートで同時開催しているジョナスの個展では、2018年『Simple Things』に続く京都賞受賞記念展として、映像作品《Waltz》(2003年)と《Mirror Improvisation》(2004年)を展示している。ここでは近年の作品において重要なプロップの1つといえる彼女の愛犬が、映像のなかでパフォーマンスにちょろっと介入する様子を観ることができる。
 かつてジョナスは「動物の振る舞い、特に私の犬たちから多くのことを学んでいる」と語っていた。彼女が毎年夏を過ごすというカナダの自然のなかで撮影された映像では、中世風の仮面や旗、衣装、鏡などのモチーフとともに、尻尾を振りながら作家や舞台にまとわりつき走りまわる白い犬の振る舞いが作品世界に独特の異化効果をもたらしている。

「ほぼ私1人で撮影しているので、犬も私から離れません。何もコントロールしないけれど以心伝心で理解していて、ただフレームに入ってくるだけで人間の演技以上の効果を生みだします。最初にパフォーマンスという方法に魅了されたとき、さまざまなメディアを同時に使うことで、もっと多彩なことができると気づきました。そして自分自身の表現言語を追求しはじめたところに、動物がやってきました。犬たちは人生の一部で、感情的なサポートを与えてくれます。鳥や海の生き物たちは創作のチャンスを与えてくれる。私はいつでも彼らを受け入れる準備ができています」(ジョナス)

 長年にわたる作家活動を通じて、自身の身体ひとつを勇敢に駆使し、手作りの象徴的なプロップや“グッドカンパニー”ともいえる動物たちとともに作品世界を醸成してきたジョーン・ジョナス。
「プロップはパフォーマンスで使われた時にはじめてオーラを持ち、すべての関係性を導いていく」とジョナスは語る。
この世界を構成するあらゆる事物が、それぞれ別のものとフラットに接点を持ったとき、はじめてそこに新たな価値観や認識が生まれてくるということを、きわめて身体的に感受させてくれる芸術家である。

Portrait of Joan Jonas, New York, 2012. Photo by Brigitte Lacombe

ジョーン・ジョナス Joan Jonas
1936年NY生まれ、同地在住。60-70年代にリチャード・セラやロバート・スミッソンらと共に実験的な活動を行い、女性パフォーマー/ヴィデオ・アーティストの先駆者として知られる。表現方法は多岐に渡り、パフォーマンス中のドローイング制作、スタジオワーク、パフォーマンスを記録した映像作品、写真作品など、幅広く制作を行う。ドイツのカッセルで5年おきに開催される国際展ドクメンタに過去6回参加。近年の主な展覧会としては、2012年に現代美術センターCCA北九州で滞在制作をおこなった他、2013年PERFORMA13、2014年台北ビエンナーレ、2015年ベネチアビエンナーレ米国パビリオン代表展示、2018年テート・モダン美術館での回顧展などが挙げられる。2018年第34回(2018)京都賞を受賞した。

ジョーン・ジョナス 京都賞受賞記念
特設サイト:http://gallery.kcua.ac.jp/joanjonas/

会期:2019年12月14日(土)〜2020年2月2日(日)
会場:京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA
休館日:月(祝日の場合は翌平日)、12月29日(日)〜1月3日(金)

※パフォーマンス公演(終了)
2019年12月12日(木)
会場:ロームシアター京都 サウスホール

クリエイターの紹介

住吉智恵

アートプロデューサー/ライター

東京生まれ。アートや舞台についてのコラムやインタビューを執筆の傍らアートオフィスTRAUMARIS主宰。各所で領域を超えた多彩な展示やパフォーマンスを企画。子育て世代のアーティストと観客を応援する「ダンス保育園!!」代表。バイリンガルのカルチャーレビューサイト「RealTokyo」ディレクター。
http://www.realtokyo.co.jp/

もっとみる

こちらもおすすめ