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自分を取り戻す「魔法の言葉」がつまった、 西加奈子の新刊『おまじない』

2018.04.05

直木賞作家の西加奈子さんの2年ぶりの新刊で、10年ぶりの短編集『おまじない』が刊行された。主人公は全員女の子。少女、ファッションモデル、キャバ嬢、レズビアン、妊婦と、さまざまな人生だが、社会の価値観や自分を取り巻く現実に戸惑い、時には傷つきながらも一生懸命に、そして素直に生きる等身大の女の子8人だ。

「……もっと女の子らしくしなさいな。」
 冒頭の一編「燃やす」で、主人公の少女・けいちゃんと一緒に暮らすおばあちゃんが彼女にかけた言葉。思わず自分の幼少期を思い出してしまった。ピンク色やフリルのついた洋服を好んで着る姉とは対照的に、黒や茶のパンツやオーバーオールを好んで着ていた私に母がよく言っていた言葉だ。女の子らしい洋服を着た方が母親が喜ぶ、そしてそうあるべきなんだとはなんとなくは理解できても、どうしても自分の心がついていかず、母の買ってくる洋服を受け入れることができなかった。このような”女の子であるがゆえ”の経験をしたことがある人は多いのでは。
 「燃やす」ではその後も、成長するけいちゃんに呪いのようにのしかかる”女の子らしく”という言葉。どうにもならない生きづらさを感じていた彼女を救ってくれたのは、学校の焼却炉のおじさんがそっとかけてくれた一言、「あなたは悪くないんです」だった。そう、だって女の子に生まれてきたことや、女らしくするとかしないとかそんなことでけいちゃんが悩む必要はないってことだから。ようやくけいちゃんは、おばあちゃん、お母さん、そして女の子らしさという呪縛から解き放たれ、自分を取り戻すことができたのだ。

短編「マタニティ」の主人公は予期せぬタイミングで妊娠をしてしまった38歳の私。飲み会で出逢って4ヶ月、自分のことを本当に好きかわからない男の子どもを宿したこと(もしかしたら違うかも?という不安もある)で、自分との対峙が始まる。結婚に焦っているのにもかかわらず、それを周りには気づかれぬように一生懸命努力して手に入れた男性だからこそ、本当の自分の気持ちが言えない。妊娠したと伝えて喜ばなかったら、自分はちゃんとした母親になれるのか……。そんな葛藤の渦中にデレビで耳にした、あるスポーツ選手の言葉。「弱いことってそんないけないんですか?」。自分だって弱いんだ…と気づいた私。自分が弱い人間であることを認めることは、いまの自分を受け入れること。

性に対する意識が大きく変化している昨今だが、やはり女性に対する「こうあるべき」という意識はまだまだ根強いもの。そんな生きづらさを抱える女の子を応援する本作だが、西さんが紡いだ「おまじない」は、じつは、男性であっても、子どもであっても大人であっても、傷つきながら生きている人みんなへの応援のメッセージが込められた作品でもある。
 これまでにも『サラバ!』や『i』など、西さんの作品がいつも教えてくれるのは、自分らしく、素直に楽しく毎日を生きること、そのために相手を思いやることーー。とても簡単なようでじつは難しいことだが、彼女の作品にはそのパワーやヒントが隠れている。西さん自身が描いたのはエネルギー溢れる挿画が美しい1冊、ぜひ手に取ってみてください。

西加奈子『おまじない』(筑摩書房)
本体価格1,300円+税

◎特設サイト
http://www.chikumashobo.co.jp/special/omajinai/

西加奈子(にし・かなこ)
1977年テヘラン生まれ。2004年『あおい』でデビュー。
07年『通天閣』で織田作之助賞を、13年『ふくわらい』で河合隼雄賞を、15年『サラバ!』で直木賞をそれぞれ受賞。その他の作品に『さくら』、『漁港の肉子ちゃん』、『舞台』、『まく子』、『 i 』など多数。

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