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Heart of Fashion

「私たちは皆、“何かを作りたい”という本能を持っている」 ジョナサン・アンダーソンが語る ロエベ ファンデーション クラフト プライズ 2019

2019.07.11

文/呉 佳子

第三回「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」の授賞セレモニーが今年、初めて日本で行われた。ロエベ財団主催による本プライズは2016年、クリエイティブディレクターにジョナサン・アンダーソンさんが就任したのを契機に発足したもの。現代のクラフトマンシップにおける卓越性、芸術的価値、新しさを讃える賞として、世界的に大きな注目を集めている。
審査員に名を連ねるのは、モノづくり業界のリーダーたちだ。日本を代表するプロダクトデザイナー、深澤直人さんも発足時からの審査員の一人。「年々、作品のレベルが上がってきている。今朝(授賞式当日)行われた選考委員会でも、非常に白熱した議論を呼んだ」と受賞者選考の舞台裏を語った。

審査員は、ロエベのクリエイティブ ディレクター、ジョナサン・アンダーソン(前列右から二人目)を筆頭に、デザイナー兼日本民藝館館長の深澤直人(左から二人目)ほかデザインや建築の分野から多彩な面々が出そろう

日本人で初めて大賞を受賞
2,500点以上の応募作品の中から選出された29点のファイナリスト(最終選考対象作品)。そのうち10点は日本人の作家によるものだ。過去2回のプライズでは、日本人への審査員特別賞の受賞はあっても、大賞の座は逃していた。メディア関係者を中心に大勢の観客が見守る中、クラフトを愛するプレゼンターとして女優の鈴木京香さんが読み上げた作品名は……、石塚源太さんによる『Surface Tactility #11』だった。
びっくりした様子で壇上へと進む石塚さんは、鈴木さんからトロフィーと大きなハグを贈られ、さらに呆然とした表情に。受賞のスピーチでは「ファイナリストに残っただけでも嬉しかったが、まさか大賞を受賞できるとは…」と驚きを率直に語った。

左から特別賞を受賞したハリー・モーガン、プレゼンターを務めた女優の鈴木京香、大賞受賞の石塚源太、審査員のひとり、ジョナサン・アンダーソン、特別賞の高樋一人

さて、石塚さんの作品は何層も漆を塗り重ねた赤黒い艶々のオブジェだ。この不思議な形のモチーフとなったのは、なんと、ネットの袋に入ったオレンジ。スーパーの売り場に並ぶごくごく日常的な、あの商品だ。現代的なモチーフと日本古来より伝わる漆の技法を掛け合わせた。
彼の作品についてコメントを求められたアンダーソンさんは、「伝統的な漆の技法を使いながら、次世代の表現をした点が素晴らしい。形は全く独創的でタイムレス。今の時代のものにも見えるし、数千年前の形と言われても、はたまた数千年後の形としてもおかしくない。今の若い世代がどのように過去を見て、それをどのように未来や現代に持ち込むかという態度をうまく表現していた。」と評価のポイントを語った。
その他、審査員特別賞として、ハリー・モーガン氏『”Untitled” from Dichotomy Series』、高樋一人氏『KADO (Angle)』の二作品が選ばれた。

『Surface Tactility #11』2018年 漆、スチレンフォーム玉、2-wayトリコット、リネン生地 670×660×840 mm
『'Untitled' from Dichotomy Series』2018年 ガラス、コンクリート 250×300×950 mm
『KADO(Angle)』2018年 サンザシの小枝、ろうを施したリネンのより糸 290×1370×860 mm

特徴的だったのは形とボリュームの探求
アンダーソンさんのコメントにもあったように、審査の場で大きく評価されるのは、その作品が今という時代を表現しているかどうかだ。審査委員長を務めたアナツ・サバルベスコアさん(スペインの大手日刊紙『エル・パイス』の建築・デザイン担当評論家)も、「デジタル社会の中での人間の在り方を定義すべく、クラフトはますます重要性を強めるだろう」と語る。
過去最大の応募点数を記録した今回、全体の特徴として挙がったのは、彫刻的で抽象的、形とボリュームの探求を行う作品が多かったという点。その全てからインスピレーションを得ていると語るアンダーソンさんは、「そもそものプライズ立ち上げの狙いとしては、クラフト、ファッション、アート、建築などの分野の境界を壊すことだ。それぞれの領域を超えたコラボレーションや相乗効果が生まれるといい」と語り、さらに「あなたにとってのクラフトは?」という問いに、「クラフトとは、人間による基本的な表現手段。私たちは皆、何かを作りたい、という本能を持っている」と答えた。

会場となった草月会館には、ファイナリストの作品が並ぶ
ファイナリストに選ばれた29組のアーティストたち

アワード作品展示会場は草月会館
「ロエベプライズをきっかけに、クラフトについて皆の会話が始まるような、そんなプラットフォームでありたい」(アンダーソンさん)という理念のもと、プライズ受賞作品展は広く一般に開かれており、入場は無料。約1カ月の間、大賞、特別賞を含めた今年のファイナリスト29点は、草月会館のイサム・ノグチの石庭「天国」にて展示されている。アプリ「LINE」内ロエベのアカウントで、作品一点一点についての解説音声ガイドも聞くことが可能だ。会期は今月22日まで。

All Photos by ©Loewe Foundation

ロエベ ファンデーション クラフト プライズ 2019
会期:2019年6月26日(水)~7月22日(月)*無休
時間:10:00~19:00(金曜日のみ20:00まで)
会場:草月会館(東京都港区赤坂7-2-21)
入場料:無料
主宰:ロエベ ファンデーション
お問い合わせ:ロエベ ジャパン カスタマーサービス 03-6215-6116
WEB:http://craftprize.loewe.com/ja/home
追記:毎週土曜14:00~は、川上典李子さんをモデレーターにスペシャルゲストをお招きしたトークセッションを開催予定。詳しくはこちらから。

クリエイターの紹介

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る……だけならカッコいいのですが、家では2児の世話に髪を振り乱す毎日。

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