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Heart of Fashion

doublet ― 注目ブランドインタビュー

2018.05.14

文/呉 佳子

“自分の培ってきた経験を、どろっとしたまま服にすると、ウソじゃないものができる”(doubletデザイナー 井野将之)

2012年立ち上げのファッションブランド、ダブレット。去年の初め頃、噂を聞きつけた私は、服を見る前に、その響きのよいブランド名が気になって、まずはネットで検索してみた。『不思議の国のアリス』で有名な作家ルイス・キャロル。彼が考案した言葉遊び「ダブレット」がブランド名の由来なのだという。アリスの夢見心地な世界観、“知る人ぞ知る”パズルの知的なイメージを思い描きながら、公式ホームページをのぞいてみると…

2018 Spring/Summer "UNDEAD-STOCK" Collection

ファンタジーとか知的とか、勝手に思い描いていた物静かな少女趣味イメージからは想像もつかないような、サブカルチャーの魅力がぎゅっと凝縮したエネルギッシュな服。一風変わった個性はもちろん、その服の背景に潜む好奇心を掻き立てるストーリーがこのブランドの魅力なのだ、と直感的に感じた瞬間だった。

「テーマは“思わず二度見しちゃう人”なんです。ほら、ふとすれ違い様にびっくりして『えっ!?』って思わず振り返っちゃうような人いますよね。アメリカのスーパーマーケットにも時々変な格好の人いるじゃないですか。そういうの今カッコイイんじゃないかと思って」と最新コレクション、18-19年秋冬コレクションを紹介してくれたのはデザイナーの井野将之だ。タイトルは「Ready to Where」。高級既製服を意味する“ready-to-wear”をもじって、場所と格好の面白いミスマッチを服に落とし込んだ。ルックブックにはパジャマにトレンチコートを引っ掛けてスケートリンクにたたずむ人や、住宅街の道ばたでホテルのバスローブ風ガウン姿で立ち尽くす人が登場する。

2018-19 Fall/Winter "READY-TO-WHERE" Collection

渋谷から私鉄で数駅、降り立った駅直結のマンションの一室がダブレットのアトリエだ。インタビューのために通された中央のミーティングテーブルを、スタッフの作業デスクやラックにかかった商品、床に積まれた資料が取り囲む。ふとすぐそばの井野のデスクの方へ目をやると、正面の壁にはイメージボードのようにたくさんの画像がコラージュされていた。真ん中には、まるで学生が試験勉強のために目標を書いて掲げているかのように、手書きのキャッチコピーが貼られている。

「『フイナム』の小牟田さん(筆者注:ウェブマガジン『フイナム』の小牟田亮編集長)があるときのコレクションを見て、『これこそダブレットだ』って記事に書いてくれたんですよ。それを読んで自分たちのやっていることが腑に落ちた。そのときの感覚がブレないように紙に書き出して貼ってるんです」(井野)。

その転機となったコレクションは16-17年秋冬シーズン。今から2年前のことだ。
それまでは、「自分は好きじゃないけど、こうしたら売れそう、流行っているから取り入れようと商品をつくっていた」(井野)。狙っているのに結果に繋がらない。試行錯誤を数シーズン続けても前進の実感は乏しく、どうすればよいのかという手がかりさえ掴めなかった。こうなったら、とにかく最後に好きなものだけ、自分がいいと思うものだけに絞って徹底的にやってやろう、とカタチにしたのがこの16-17年秋冬シーズンだった。

2016-17 Fall/Winter "DON'T DO IT YOURSELF" Collection

結果、見事に当たった。バイヤーからの評価はそのままビジネスの手応えとして返ってきた。そのとき学んだのが、「自分の培ってきた経験を、どろっとしたまま服にすると、ウソじゃないものができる」(井野)。小・中・高と多感なときは『週刊少年ジャンプ』の黄金期で、漫画をよく読んだ。ハリウッドの名作好きの父の影響で小さな頃から映画を見る機会が多く、3つ上のバンドマンの兄からは音楽の手ほどきを受けた。自分を形づくってきたひとつひとつの経験を糧に、果たして自分が着てみたいと思うか。それが重要なのだと言う。「自分は着ないけど他人が着たらかっこよさそうというのは全くだめ」(井野)。もがきながら見つけた鉄則は、世界に認められるための若手デザイナーの登竜門、「LVMHプライズ」の2018年ファイナリストへの扉を開いた。今年3月の選考会で選ばれた9ブランドのひとつに残ったのだ。

3月に行われた「LVMHプライズ」選考会の会場風景

目下のターゲットは、パリで行われるプライズの最終選考会開催の6月6日。それまでに19年春夏シーズンのコレクションを完成させる。「今までやってきた中で一番制作期間が短いから、間に合うかどうか本当にハラハラします」と井野は胸の内を明かすが、それほど肩に力の入った様子はない。期待や期限のプレッシャーと隣り合わせの慌ただしい毎日の中でも、むしろ今のこのスピード感を楽しんでいるかのように見える。よいアイデアを思いついたり、面白いモノが出来上がってきたときは格別だという。「もやもやしてたものが一気に吹き飛びます。自分はギャンブルはしないけれど、きっとこういう気持ちなんじゃないかな。負けたことよりも大勝ちしたときの記憶しかなくて、ついまた挑戦してしまう」(井野)。インタビュー中もちょっとした“間”を掴んで、スタッフにてきぱきと指示を飛ばすなど、寸暇を惜しんでクリエイションに没頭している。そのライブ感、スピード感がダブレットの原動力なのだと確信した。

ダブレット デザイナー、井野将之

All Photos Credit
Photos: Ittetsu Matsuoka
Styling: Demi Demu
Hair&Makeup: Nori
Art Director: Yuma Higuchi

クリエイターの紹介

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る……だけならカッコいいのですが、家では2児の世話に髪を振り乱す毎日。長男進学につき、ウワサに聞く“小一の壁”の洗礼を受けています。おしゃべりが上手になった2才の長女は最近「はぁー、つかれた!」「腰イタイ〜」と言い出して……。自分の口癖を反省中。

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